誰も気づかない
・・・初めは、眠いのかと思った。
おとなしくて温和なMさん(70代男性)は朝からボ~ッとしていた。昨日の朝、トイレでの立ち上がりが少し不安定だったので気になったが、朝だから眠いのかと思った。おはようございますの声かけにもにこっと笑ってくれたし。
午前中入浴介助だった私は、そのままお風呂場へ行った。
午後はフロア残りだった。入浴から戻ってきたMさんは、食堂の席でウトウトしていた。
「Mさん、眠いですか? お風呂入って疲れちゃったのかな?」 ウンウンと頷いた。なんとなく気になりながらも、私は自分の仕事をこなしていた。
3時、おやつの時間、Mさんはおやつに手をつけない。お茶も飲まない。勧めても首を振る。「Mさん、おやつ食べないんですか? 眠いの?」 ウンウンと頷いた。
何か変だな・・・常勤スタッフに、「ねぇ、Mさんの様子、変じゃない? いつもあんな感じ?」と尋ねると、「そうよ」との返事。
ふ~ん。こっちの言うことはわかってるし、目も焦点が合っている。元々口数の少ないおとなしい人だし・・・おやつは無理して食べなくてもいいしね。眠いのなら寝かせてあげようかと思っていると、幼馴染みだというお友達が面会に来られた。
30分ぐらいだったか、食堂でその友人と歓談されていたが、チラっと見る限り、話しかけるのはもっぱら友人の方で、Mさんは頷いたり微笑んだりしているだけ。
やっぱりおかしいよ・・・午前中のMさんはどんなだったのだろう。お風呂で湯あたりしただけじゃないような・・・だって、言葉を発しないもの・・・周りのスタッフに言ってもみんなバタバタと慌しく、誰もMさんのそばに行ってみようともしない。リーダーは新人につきっきりだし、主任ナースは会議中。
友人のかたが帰った後、私はトイレを済ませてから寝かせてあげようと思い、車椅子をトイレに誘導した。Mさんは朝より立てなくなっていた。左へ大きく傾いた。急いでナースに報告した。
バイタルチェックしていたナースに、どうですか?と聞いたら、
「どうもこうも、血圧も心拍数もすごいことになってるよ。心電図、心電図!」
急いでベッドに運ぶと、横になったMさんは何度も嘔吐した。
そこからフロアが一気に慌しくなった。
ドクターが呼ばれ、会議中だった主任が戻り、ナースが走り回った。私たちは主任から聞き取り調査された。フロアでのMさんはどんな様子だったか、入浴時はどうだったか、誰がいつ、異変に気づいたのかetc...
救急車が呼ばれ、Mさんは搬送されていった。
ここには普通に見えていてもいつ何が起こってもおかしくないような、要注意のかたが何人かおられる。スタッフ特にナースは、そういうかたには常に注意を払っているが、Mさんは安定していただけに、誰も異変に気づいてはくれなかった。
あとで聞くと、みんな何か変だなとは感じていたらしいが、誰もそれを口にしなかった。前日の記録を見ると、「1日ウトウトしておられる」と書いてあった。もしかしたらその頃から異変は起こっていたのかもしれない。普段おとなしい人だけに見過ごされてしまったということか。
なんで、誰も気づかないのよ! アンタら、それでも常勤か!
腹が立った。(なんかこの頃、怒ってばかりいる私^^; カルシウム不足か?)
いやいや、私も朝に感じた「変だな」を、入浴介助に行く前に誰かに伝えればよかったのだ。もっと強く主張すればよかったのだ。もっと早くにMさんのところにナースでも誰でも引っ張っていけばよかったのだ・・・。
パートや派遣が利用者の状態を見て気づいたことや疑問を伝えると、「アンタはたまにしか来ないからわからないだろうけどこの人はいつもそうなのよ。そんな小さなことをイチイチ報告しないでちょうだい忙しいんだから」的態度を取る常勤者がいるのも事実。そんな態度を取られたくないとの思いが私の頭をかすめたのも事実。
最初に報告したナースに、「あなたはいつもよく気づいてくれるね」と言われたのがせめてもの救いだ。
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